タイQT挑戦記 ― Finalラウンド編:Relationship ― 私が取り戻したもの

2025年10月18日 |

かつての私は成功しよう、人として正しくあろう、周りの人のために生きようと思っていた。そう考えることが人として正しい道だと考えていた私は、その内面が意図しない形として、人に対してプレッシャーを与えるような表情や態度、しぐさを作り出していたかもしれない。私の思い上がりや慢心によって、大切な人を傷つけ、大きな挫折を経験した。その出来事以降は自信を失い、大切だと思ってことのそのすべては自分の中で消え去っていた。そして、そのような私は、生きる意欲を失っている自分がいることにも気づいていた。

偶然から生まれたタイへの道

国内に魅力的なレッスン開催地が少なくなってきたため、1年前に冬のタイキャンプの視察と事前準備に一人で向かった。

Amazing Thailand -タイゴルフの魅力について-

タイの現地の人の温かさや自然は、心を癒してくれた。それぞれが自分のペースで動いているように見えた。英語もまともにできない私の視察の苦労話を、訪れた先のゴルフ場の担当者にしたらよほど面白かったのか爆笑された。また、プライベートで会ってくれる友人もできて、プールサイドのバーで私にタイ語を色々教えてくれた。

行った先のあるコースで、偶然にもトーナメントが開催されていた。「へえー、試合をやっているんだー。」とそこで何気なく思っていた。

渡航前には「良いコースがなかったら無理に開催しなくてもいい」と言われて向かったタイ視察だったが、無事に良いゴルフ場と提携でき、冬にはタイのゴルフキャンプを開催した。タイでのゴルフキャンプの魅力をGEN-TENメンバーさんに体感してもらえたのは、私にとって嬉しい出来事だった。

そして、ゴルフキャンプを開催した会場のキャディさんに次のようなことを言われた。

「あなたはトーナメントに出ないの?ここでやってるからあなたも出なよ!」

QT Finalラウンドの開始

最終日、気持ちのよい朝を迎える。ここまでは、1日目12オーバー、2日目8オーバー、3日目6オーバーと+26という成績であった。連日ショットは左右に散り、苦しい2、3mやそれ以上のパーパットを入れながらラウンドであった。一歩間違えれば、90というスコアもみえてくる。そんな状況であった。

本来なら何か一矢報いて良いスコアで回りたいと思う。そういった気持ちも多少なりともあったが、この試合で本当は、「自分は何がしたかったのか、なぜここに来たのか」を私は思い出すようにした。

今日のペアリングは、2日目に一緒だった南アフリカのPatrick選手との2サム。スタートホールのティーオフ、ウォーターミルゴルフクラブ&リゾートで最後の18ホールが始まった。

最高のティーショットから始まり、No.10をパー発進。難関のNo.11 Par3ではピン方向にボールが飛び、ちょっとだけグリーンを超えてしまったがグリーン脇の深いラフからフォーティーンのFRZウェッジを駆使し、この難ホールでパーセーブすることができた。

「導き手」としての存在に

キャディのDeer(ディア)とは今日で5日目。これまでのラウンド中のピンチを何度も救ってくれた。No.11のグリーンへ向かう途中、「Are you going back to Japan after the game today?」と聞かれたので、「Yes,I’m going to back to Japan tonight.」と答える。彼女はちょっとふざけながら「Byebye!!」と言う。Deerとはこんな間柄でプレーしてた僕は、日本でプレーしている時もリラックスし、楽しんでプレーしていた。

この日もこれまで彼女のアドバイスや気遣い、サポートによってパーセーブを繰り返していた。グリーンの読みは素晴らしく正確であった。鹿(英語で“Deer”)は、多くの神話や宗教、アートの中で「優しさ」や「導き」、「再生」を意味する。まさにDeerは、私にとってキャディを超えて、正しい道へ案内する「導き手」としての存在になっていた。

私がグリーンのどこのエリアを狙うかを確認していると必ずそばにきて、私のヤーテージブックを覗き込み、私が打つエリアを間違えないように一緒に確認してくれる。ドライバーかミニドライバーのどちらで打てばよいかを聞いた時は流石に困っていたが、私が自信満々にドライバーを手に取ると、ちょっと苦笑いして、「ちゃんと真ん中に打ってね」と目線を送るのだ。

試合中のミスも笑いに

前半もティーショットは安定しない。No.12で右の池に入れると、僕は、彼女の顔を見て「Deer!このホールまたやっちゃったよ!」と笑う。Deerは、不思議そうな顔をする。

連日のように終始ピンチを向かえるが、僕は試合中にも関わらず、ピンチを迎えてはパーセーブしていくゴルフが楽しくて仕方なかった。前半はNo.18でバーディを取れなかったことと池に入れたダブルボギーが2つあり、4オーバーで終える。

No.18を終えて、QT最後のバックナインに向かう。「9 holes! finish!」というと彼女は「Byebye!!」とまた言ってくれる。

最後のバックナイン

No.1のドライバーで放ったティーショットは会心だった。ちょっと距離のあるパーパットは残ったが、Deerの読み通りに打ちパーセーブ。No.2は、2.5mの微妙なパーパットを外してしまったが落ち込むことはない。

迎えたNo.3 Par3、ピンまで169ヤードを8Iで打ちピン方向に打つことができて5mのバーディチャンスに。

上りのスライスをDeerと確認し、その通りに打つ。綺麗なピュアロールで向かってカップ縁で一旦泊まる。ボールが2秒後に動き吸い込まれてバーディ。No.4もNo.5も微妙な距離が残ったパーパットを彼女の導く通りに打って攻略していく。

ショットも安定性を増してきて、グリーンが横に細長いNo.6を向かえる。連日ティーショットを成功させていたがセカンドショットが決まらず、スコアを落としていたホールだった。

「ピンまで109ヤードだからこのエリアに打っていくね」と二人でヤーテージブックを見ながらに確認する。彼女は「OK ka」と言ってくれる。この日まで距離を合わせるのが難しかったこのホールのセカンドショットをピン横2mにつける。バーディとはならなかったが、このホールは私にとって納得できる形で終えることができた。

終わらないでほしい時間

「このまま眠りついたら、もうそのままずっと目が覚めなくてもいいのに」と思いながら日々を過ごしていた私は、この時に何かを取り戻した感覚を得た。悲しみ、苦しみ、無力感といった自分を縛り付けていた重力が消えていく。「生きよう、誰の期待に応えることなく、1打1打に自分を表現していくだけでいい。もう何者にもなろうとしない、自分のために進んでいこう。」私は、自分が本当にやりたかったことに気づいた。美しい光と暖かさに包まれたような、これまでに感じたことのない幸せを感じた。「そうか、これが本当の自分か」 私は確かに何かを取り戻していた。

No.8 600ヤードPar5、ティーショットは少し右に逸れたが良い場所に打つことができた。セカンドショットは、左の池がハザードとして効果的に配置され、左右のバンカーもプレッシャーを与える。私は、ラフからのセカンドを7Wで打ち、このショットも成功させてフェアウェイに置く。

3打目を打つのを待っていると、キャディバックにぶら下げた手提げから香水が見えた。それを見ていた私にDeerは「あげる」と言う。Deerのはタイじゃないと買えないからと。実は前日のラウンド前に、お互いの香水の話をしていた。私は、自分が大事にしているeUNoia essentialsのWu Weiを彼女に渡すことにした。老子が説く「道(タオ)」というものが存在するのなら、どうかその「道」が彼女を導いてくれますようにと願いを込めて。

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私はとても幸せな気持ちで、ピンまで99ヤードのサードショットに臨む。もうすでにそのショットが成功することが分かっていたように飛んでいき、ピンを超えたボールはバックスピンで戻りピン横1.5mにつく。最高のパッティングストロークが出来てこのホールをバーディにした。同組のパトリック選手も難しい状況から素晴らしいスコアリングゲームでパーをセーブ。私は「この素晴らしい時間が終わらないでほしい」と思った。

美しきダブルボギー

残すところあとひとホール。No.9 Par4、左にバザードが広がる美しいホール。私は、このホールの造詣、バンカーの配置、戦略性からこのウォーターミル中で一番好きなホールだ。グリーン右サイドからセンターにかけて斜めに大きなバンカーが配置されている。ティーショットをフェアウェイに置かなければパーセーブが難しい。

左からの風を感じた。左のバンカー寄りを狙った僕の放った最終ホールのティーショットは、少し引っ掛けて左の池に吸い込まれる。しかし、簡単には終わらない。次のショットは、ピンに対しては良いロケーションで打てることを知っていたからだ。

同組のPatrick選手は、右のラフから放ったセカンドショットをOKにつけた。難しいロケーションから、素晴らしく美しいショットを見ることができた。ワクワクが止まらない。私のサードショットは、ピンまで145ヤードであった。9番アイアンで放ったボールはワンピン右に飛んでいった。

6mのカラーからの下りのフックラインが残った。3%以上の傾斜があると感じた、もしかしたらそれ以上かも..。私はこのトーナメント中に、どうしてもフックラインの距離感がピッタリに合わせられていなかった。私の打ったパーパットは、その傾斜に打たされてしまい3mほどオーバーした。

そして返しは、自信のあったスライスラインが残った。これまでこうした厳しいパーパットを入れ続けてきた。Deerの導く読みと私の思い描くイメージはぴったりと一致する。私は感じる、人を信じることができていると。気持ちを込めて打てたボギーパットはわずかに少しだけそれて、カップの縁に止まったが、私はとても美しいストロークだったと感じることができた。

人生で最高の18ホール

この日も3rdラウンドと同じく、6オーバーでプレーを終えた。私にとっては、この18ホールはあっという間の時間だった。かつてスポーツや芸術の分野で言われる最高の精神状態(ゾーン)を感じたことがあるが、それ以上に幸せで温かい時間を感じ、自分を表現できた18ホールだった。そのすべてが美しく、光を感じながらプレーすることができた。「この景色を見るためにこれまでがあって、これが自分の見たかった景色だ」と感じ、私の心は、人生で最高の18ホールに充実と感謝の気持ちで溢れた。


(ホールアウト後、Patrick選手が写真に応じてくれる)

関わってくれた人への感謝

私は、タイでQTを受けるなど全く想像つかなかった。ましてや30歳を過ぎてまた競技ゴルフをすることさえも。すべてに対して意欲を失っていた私は、何かの運命や流れに導かれこの試合に辿りついた。

試合前に訪れたホテルのレストランのスタッフは、以前そこで滞在していた私のことを良く覚えてくれていた。ロータスバレーで働くスタッフやキャディさんたち、偶然プライベートで一緒に回ったタイ人のゴルファーの方達。現地にいくと連絡をくれるタイの友人、国籍が違ってもこの試合までにも色んな人が私に関わってくれて、温かさを感じた。試合を一緒に頑張った選手たちからもよく声をかけてもらった。

クラブの提供やクラブのサポートしてくださるフォーティーンさんは、いつも私のリクエストに応じてくれました。GEN-TENの卓朗コーチは、試合前までよくラウンドに付き合ってくれた。小西コーチはいつも気にかけてくれて、私が名古屋に帰るとその施設で練習をサポートしてくれた。中村コーチはプロの試合で通用するアプローチの打ち方を教えてくれて、私が打ち方を忘れてしまうとその都度アドバイスをくれた。GEN-TENのスタッフ・コーチ、関わってくれたすべての人に感謝したい。

私が取り戻すことができたもの

72ホール、練習ラウンドを合わせると90ホールを支えてくれたキャディのDeer。彼女の優しさと気遣い、導きによって僕は、心を取り戻し本当の自分を思い出すことができた。誇れるスコアではなかった。試合は惨敗であったけれども、最後の18ホールでは、自分を表現した人生で最高のプレーをすることができた。

この場を借りて、Deerに感謝を伝えます。

Dear Deer,

Your kindness, care, and devoted support helped me find my way back to who I truly am.
Although I couldn’t show you my best performance, during the final 18 holes I felt I was able to express myself fully.
It became the most beautiful round of my life.
Through “your guidance”, I could once again see the light and the beautiful scenery that I had been missing.
And just like the scent of the perfume you gave me,
your kindness will remain in my memory forever.
I will always wish you happiness from afar.
Thank you from the bottom of my heart.

— Keisuke


Deer

あなたの優しさと気遣い、そして献身的なサポートによって、
私は本来の自分を取り戻すことができました。
結果としても、あなたに良いプレーを見せてあげることはできなかったけれど、
最後の18ホールは、自分を表現することができて、
これまでの人生で一番素晴らしいラウンドにすることができました。

あなたの「導き」によって、私は再び光と美しい景色を見ることができました。
そして、あなたがくれた香水の香りのように、
あなたの優しさは、私の記憶の中にずっと残り続けるでしょう。
これからも、あなたの幸せを遠くから願っています。
ありがとう。

―慶介

Special thanks to Deer.

終わりに

複数回に分けて「タイQT挑戦の様子」を投稿しました。私が感じたリアルな体験を可能な限り文字として表現しました。私の「ちゃれんじ」が誰かの背中を押すきっかけになれば幸いです。もしこうした記事が誰かのためになるのなら再び、このように感じたことやゴルフを通じた出来事をそのままお伝えしていきたいと思います。来年もタイQTに挑戦したいと思います。

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この記事を書いたのは

寺嶋 慶介

寺嶋 慶介

■おすすめのレッスン
2025年8月29日(金)ワンウェイゴルフクラブ

■ゴルフキャンプの開催
ディスカバリーキャンプ at 初穂CC(群馬)

ディスカバリーキャンプ at 初穂カントリークラブ(群馬) 寺嶋 慶介

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2021年7月発売週刊ダイヤモンドの取材を受けました
https://diamond.jp/articles/-/275562

2021年Regina初夏号「ビギナーさんいらっしゃい!」の取材受けました


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