言葉で伝える難しさ

2013年9月4日 |


実は2年程前に私はあるテレビ番組で「ツアープレイヤーにレッスンの仕方を教える」という少し変わったお仕事の依頼を受けました。

皆さんが日頃テレビを通して見ているツアープレイヤー達はプレーするプロフェッショナルであって、教えるプロフェッショナルではありません。とはいえ彼らはプロです。当然私達よりも遥かにゴルフは上手だし、様々なシチュエーションも経験しているので語れる事も多いはずです。
しかし私が驚いたのはツアープレイヤー達が自分のスイングやテクニックをほとんど言語化できない事でした。誤解のないように補足しておきますが、私は彼らの事をとても尊敬していますし、彼らも自分の打ち方や考え方について言葉や文章にする機会が頻繁にあったり、それをする事で自分に何らかの利益があれば私達よりも遥かに高い次元で出来ると思います。
ただ彼らは自分の打ち方を論理的に説明してお金を稼ぐのではなく、あくまでプレイヤーとして感覚を研ぎ澄ませて最高のショットをする事でお金を稼ぐので、そこに言葉は要りません。だから当然「口よりも腕が立つ」。当たり前のことです。

対して私達は「腕よりも口が立つ」。こう書くとなんだかゴルファーとしては情けない感じもしますが(苦笑)これが私達が皆さんからコーチとしての依頼を頂ける理由でもあります。

私達の仕事は「体の動き」や「思考」を『言葉』にしてクライアントの行動変容を促します。これはGEN-TENの研修にも取り入れらていますが感覚や思考を言葉にするのは「身体知の言語化」という事を意味しています。実際にスイングというのは感覚的に行われていますが、この「感覚」というのは言葉にするのがとても厄介です。
たとえばバックスイングを内側に引き過ぎる人に「このくらいですよー」と正しい位置をアドバイスすると、「えーメッチャ外に上がってる感じなんですけどー!?」となります。要するに「ヘッドを真っ直ぐ上げて下さい」では正しい位置に上がらず、「ヘッドを体から離すように外に上げて下さい」というと正しい位置に上がるという事です。しかし違うゴルファーに同じアドバイスをすると見事に、外側の正しくない方向にヘッドを引くという言葉というのは何とも困ったツールです。

このように無意識の体の動きを言葉する、更にそれを使って相手の行動を変える。というのは熟達者でも至難の業です。これには言語化(すなわち言葉によって説明・伝達可能にすること)の技術や、相手の行動や性格を理解するという「認識」が求められます。そしてこの言語化に特に欠かせないのが「表現(比喩的用)法」と「順番(ストーリー)」です。

表現は例を上げると「握る強さ」という何とも感覚的で言葉にしにくい事でも、私達は何通りもの例えを使って説明します。「ひよこを持つように」「歯磨き粉がチューブから出ない位の強さで」という想像力を利用したものから「最大握力を10としたら3で」というような数字を使った例えまで様々です。これら沢山の比喩的用法をゴルファーのレベルやキャリアを判断して瞬時に使い分けています。

順番は出来るだけ分かり易い順序で説明するということです。例えば「握り方」の説明をする時には「握る位置」「握る方法(カタチ)」「握る強さ」というように話します。これは最初に位置を説明しないと後で正しい位置で握り直す事になってしまうし、強さを2番目に言っても後で正しいカタチに持ち変える必要が出てきますね。
これがスイングのような連動する動作になると更に順番の重要性は高まります。これは私の個人的な意見ですが、コーチのスキルが最も出易いのはこの「伝える順序」かもしれません。レッスンが上手いコーチは幾つもの修正の選択肢(オプション)を出して、その中で最も効果が高い話の順序(ストーリー)を作ります。このストーリー作り方が上手なコーチはレッスンを聞いていても心地良さを感じるはずです。

レッスンの良し悪しを判断するのはとても難しいのですが、この「心地よさ」というのは一つの基準になると私は思っています。何故ならコーチのいう事が矛盾していて納得できなかったり、アドバイスがチグハグで理解し難かったり、説明が長くて的を得ないというのは聞いていて心地よくないのです。

ですからクライアントに心地よく上達してもらうためにも「思考や動きを言語化して、最も伝わり易い表現で、正しい順序で伝える」というのはとても重要なスキルです。

もちろん私達は言語化以前に、日頃からスイングやストロークを理論的に見たり考えたりというインプットを繰り返しています。そして今回書いたような事を考えながらレッスンの現場でアウトプットをしているという訳です。

如何でしたでしょうか?
「ホントにそんな難しい事やってるの?」と思う方も多いかもしれませんが、実を言うと優秀なコーチが自然と感覚的にやっていることを言語化するとこのような感じになるという事です(笑)
GEN-TENには沢山のコーチがいますので、あなたにとって”心地よい”言語化上手なコーチを探してみて下さい(^^)

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この記事を書いたのは

大矢 隆司

大矢 隆司

1980年7月15日生まれ
15歳で単身オーストラアへゴルフ留学Hills Golf Academyで3年間ゴルフを学ぶ。
その後大学在学中にティーチングライセンスを取得しゴルフコーチとして仕事を始める。MBA(経営学修士)のキャリアも持つ異色のゴルフコーチ。
2005年にGEN-TENの設立。現在はディレクターとしてレッスンプログラム開発と組織運営を担当。趣味はゴルフ旅行(スコットランドトリップアメリカトリップ

ゴルフコーチ(USGTF)
メンタルフィットネストレーナー(NESTA)
ゴルフコンディショニングスペシャリスト(NESTA)
ゴルフフィットネストレーナー(JGFO)

Director’s note」を通じて私達が提供するゴルフコースレッスンというサービスについて1人でも多くの方に興味を持っていただけたら嬉しいです。
ゴルフ&ウェルネスツーリズム「The Golf Retreat」も主宰。
大矢隆司 公式ブログ(takashioya.com)

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