センシングテクノロジーから考えるゴルフコーチング

2018年3月6日 |


ゴルフは結果に運やメンタルゲームの要素を多く含み非常に感覚的なスポーツである一方で、実は非常に科学的なスポーツでもあります。
以前にご紹介したSG(ストロークゲイン)ような数学的な分析はもちろん、最高のパフォーマンスを出すための分析には最先端の技術が使われていて、それはクラブの開発であったり、弾道やスイングの解析にも用いられています。

こうした最新のテクノロジーが次々と投入される背景には、ゴルフのマーケットは大きく研究の価値があること、そして他のスポーツに比べ定点からプレーするゴルフはデータの取得が容易である事が挙げられます。

皆さまの中にもこうした最新のテクノロジーや、そのデータを活かしたコーチングに興味を持っている方もいらっしゃると思いますので、私が実際に体験した感想を元に、その有効性や注意点について書いてみたいと思います。

センシングテクノロジーとゴルフ

センサー(感知器)には様々な種類がありますが、今ゴルフの動作解析で使われているものは加速度、角速度、位置情報、感圧などのセンサーが代表的で、テレビでもおなじみの弾道解析ではレーザー照射や超高速カメラが主に使われています。

当初は大学やゴルフの研究機関で主に使われていましたが、半導体やテクノロジーの進化と共に価格も数十万円から数百万円台となり、一般企業や個人でも所有が可能な時代になりました。おそらくこれからもどんどん高性能化、低価格化が進み、スマホやウェアラブル端末でこうしたデータがとれるようになる時代も遠くないでしょう。

実はわたし達も弾道解析やスイングの軌道解析については過去に研修などで学んでおり、ボールフライトや、クラブパスのデータから導き出される「Nine Ball Flight」や「D-Plane」は近年のコーチングには必要不可欠な知識となっています。

近年は動作解析のセンシングが特に注目されており、今回は体の各部位にセンサーを取り付けて動作を数値化する「My Swing」と、足の裏の加圧を測定し重心の移動を数値化する「Bodi Track」という機械を使いました。

動作解析の方法

計測はスイングデータアナリストの橋本真和さんに手伝ってもらいました。(GEN-TENでも今度データ測定のイベントをしてくれる約束をしましたのでお楽しみに!)

彼はジュニアの頃から選手として活躍していましたが、今はこうしたセンシングテクノロジーを使ったデータをコーチに提供したり、プロゴルファーへのフィードバックをしています。今回つかった「My swing」という機械はまだ日本に数台しかないそうで、今回は貴重な体験をさせてもらいました。

まず体にセンサーをつけます。
センサーをPCに認識させて各部位の位置情報を取得します。(ボディスキャンをしているところです)
スイングしてデータを取ります。
取得データを元にビジュアライズします。(自分ではまっすぐと思っていても、腰がクローズ、肩がオープンに構えているのが分かる)
(トップオブポジションで腰が46度、肩が90度回っているというのが数字で分かる)

各部位の動くスピード、角度、タイミングなどのを理解することができます。
(こちらはボディトラックという足裏感圧センサーで荷重や重心の位置を確認できる装置)

動作解析の効果

まずはファーストインプレッションです。
これはゴルフコーチである私の感想ですが、多くの方がデータ解析で何か画期的な事が起こるのでは?と期待が高まるのですが、実際はデータから導き出される解釈は専門家であれば目視で判断できることがほとんどです。
何故かというと実はこうしたデータというのは開発企業や研究機関などを通じてすでに広く公開されていて、現代のコーチング理論に使われています。おそらく職業コーチでこうしたデータの裏付けを持たない人は今では少ないと思います。ですから機器を持たない我々でも日常的にそれらのデータは知識としてインプットされていて、そのデータが示す箇所は自然と注目しているので、データからの目新しい発見や、気づかなかった癖が見つかるというのはあまり無いと思います。トップロのように究極のレベルまでいっていれば目視では確認できないようなエラーがデータを通じて分かるかもしれませんが、おそらく99%のゴルファーはデータをとっても過去に指摘されたポイントを改めて理解することになりますし、仮に私がこのデータを使っても使わなくても指摘するポイントは変わらないと思います。なのでデータに過剰に期待するのではなく、事実の確認や、改善の度合いを計るためのフィードバックのツールであるという認識が重要になります。

その点で言えば、最も良いと感じるのは「数字ゆえの安心感や納得感」があることです。(数字やグラフで可視化されることで状態がより明確に分かりやすくなる)
例えば「腰をもっと回してください」と言われてもどの程度回していいのかは本人の感覚に委ねられます。自分では極端にやってるつもりなのに「まだ足りない。もっと。」と言われた経験は皆さんあると思います。動作の改善では常に「どのくらい?」という不安がつきまといますが、データがあればあと1.5倍くらい、あと10度くらい、と「意識」と「運動」を紐づける事で変化の速度が早まるというメリットは大きいと感じました。さらに今回つかった機器にはバイオフィードバックモードがあり、理想的な動きと自分の体の動きが一致している間は音が鳴る機能で、正しい体の角度や位置を正確に知ることもできます。
実際に私もダウンスイングで骨盤が回り過ぎて前傾角度が浅くなるという癖があり修正を試みたんですが、データを信頼して自分が持っていたイメージよりもダイナミックに動かせた事で早く修正ができました。実感値としては普段の5倍くらい(通常3,4回の練習が必要な部分を半日くらいで)早く修正できた感じがしました。もちろん我々はゴルフの専門家なので修正は一般の方に比べて早いと思いますが、ここまで自信をもって体の動きを変えられるというのは我々コーチの力ではできない事です。
以上の体験からセンシングのデータ解析のメリットを一言で言えば「データによってスイングを可視化することで、客観的に事実を把握する事ができ、意識(イメージ)と実際の運動を紐づける事で改善のスピードを高めることができる」というのが私の感想です。

一方で気になった点は「データにとらわれる」という点です。
これは2つの意味をもっていて、1つ目は解釈の間違いです。
正解のデータセットの中身はPGAのトッププレイヤーから収集されたデータなのですが、彼らの数字=理想と思い込み、それに近づけようとしていたんですが、よくよく見るとトッププレイヤーの平均値はあくまで平均値であり、個体のデータでみると平均値からズレている事が多かったのです。
どういう事かというと例えばインパクトで骨盤の回転角度が20度のプレイヤーが10人、45度のプレイヤーが8人、30度が1人、50度が1人いたとします。すると平均値は32度となり、たった1人しかいないマイナーな数字をメジャーと認識してしまうケースが出てきます。(プロでも多くの項目でTour rangeから外れているのがわかる)
実は私がハマったのも正にこれで、できるだけ最新のスイングに近づけようと、公開されたトップ選手の平均的なデータを参考に、骨盤や胸郭の回転角度を増やしてスイング方向をやや左向きにしてフェードボールを打つ練習をしてました。しかし実際に個体のデータを見るとそのように振っているプレイヤーは少なかったのです。結果的に体の位置に対して腕の振りが不足してしまい理想的なシーケンスから遠ざかってしまいました。これはデータの読み違いの典型的な例だと思います。(インパクトで骨盤の回転を平均値に近づけようとして腕の振りが弱くなりシーケンスが崩れている)
プロといっても様々で、唯一無二という正解は平均値にも個体値にも存在しないということです。

そして注意点の2つ目はデータへの依存や過剰な期待です。
特に思い込みが激しい方や、神経質な人には気をつけて欲しいのですが、データと理論は違います。
もちろんデータの中には熟達者に共通する一定の法則は存在しますが、スイングは平均値や公約数を追い求めるものではなく、自分なりに理想を追求していかなければいけません。例を挙げると、私たちはPGAプロのデータをベンチマークしてしまいますが、ではプロである彼らはどんなデータをベンチマークとするのでしょうか?T・ウッズがJ・トーマスのデータに近づけようと思うことはないでしょうし、P・ミケルソンがB・ワトソンを参考にすることもないと思います。
彼らが行うのは自分にとっての理想値の追求であり、それは良い状態の時と悪い状態の時との比較であったり、怪我や痛みの原因の追求だったりします。

スイング作りやコーチングというのは「理想=運動を整合させていく行為」という基本理念を忘れてはいけません。スイングは整合が大切であり、自分の理想とする弾道、年齢や性別、体型、筋力や柔軟性、使っているクラブ、ゴルフをする目的、がスイングという行為として整合しているべきだと改めて感じました。ですからあくまでもデータは方針とせずフィードバックで活用すべきだと私は思います。

コーチングへの応用

最後にこれを実際に自分のコーチングで使ってみたいか?ということですが、これはイエスです。
これは各コーチのコーチングフィロソフィーとも関係しますが、コーチングは目標設定、課題設定、フィードバック、動機付けを含む総合的な仕事です。その中でもフィードバックの重要性は特に高く、フィードバックに効果があるデータは非常に有効だと思います。
例えば上級者(80台でプレーできるレベル)になれば年に1,2回程度使っていくとレッスンの効果をさらに高められると思いますし、プロなどエキスパートになるほどに効果は高いと思いますので、伸び悩んでいる中上級者の方向けにGEN-TENでも年に数回はこういう計測の機会を提供したいなと思います。
しかし選手や本人が使うのは前のパラグラフで書いた注意点を含めて難しいと思います。実際に今回お世話になったデータアナリストの方も「本人に見せると数字が気になってスイングできなくなってしまうので、コーチにだけ伝えることが多いです」と言っていましたが、確かに初級者や中級者だと理想値からの乖離が大きく自信をなくしてしまったり、私のように誤った解釈をする可能性はより高くなります。
大切なのはデータを解釈するということですから、正しくデータを解釈できるコーチやアナリストに自分のスイングデータを渡しておく事で、レッスンがより有意義なものになると思います。

最後に

書いてきた通り、私たちの仕事にデータは必要不可欠になってきています。今後もデータ収集の大衆化は進むでしょうし、理論もデータに基づいたものが増えてくると思います。
これまで感覚知であったものがデータという形式知になることで分析やビジュアライズが可能になり、ゴルフがより簡単になって参加障壁が下がる期待もあると同時に、データという細かな数字の塊を重視し過ぎることでクリエイティビティが失われゴルフそのものの楽しみを奪ってしまう可能性もあります。

私たちコーチがするべきことは、時代の大きな流れとしてのテクノロジーの進化や、ゴルファーのニーズを的確に把握して、ゴルフをより簡単にすること、ゴルフをもっと楽しくするために、定量的、定性的の両面から情報をとらえ知恵を発揮していくことだと思います。もちろん今回の勉強の成果は4月からの新メニュー「アカデミア」やGEN-TENのコーチにもシェアして使っていきます。

今後も原点(ゲンテン)を大切に、新しいものも柔軟に積極的に取り入れながら、皆さんのゴルフの楽しさを作っていきたいと思います(^^)
こうしたセンシングのコーチングに興味のある方は会場でお会いした時にぜひ質問してくださいね!

この記事を書いたのは

大矢 隆司

大矢 隆司

1980年7月15日生まれ
15歳で単身オーストラアへゴルフ留学Hills Golf Academyで3年間ゴルフを学ぶ。
その後大学在学中にティーチングライセンスを取得しゴルフコーチとして仕事を始める。MBA(経営学修士)のキャリアも持つ異色のゴルフコーチ。
2005年にGEN-TENの設立。現在はディレクターとしてレッスンプログラム開発と組織運営を担当。趣味はゴルフ旅行(スコットランドトリップアメリカトリップ

ゴルフコーチ(USGTF)
メンタルフィットネストレーナー(NESTA)
ゴルフコンディショニングスペシャリスト(NESTA)
ゴルフフィットネストレーナー(JGFO)

Director’s note」を通じて私達が提供するゴルフコースレッスンというサービスについて1人でも多くの方に興味を持っていただけたら嬉しいです。
ゴルフ&ウェルネスツーリズム「The Golf Retreat」も主宰。

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