PEAKセミナー データを使ったコーチングの真実

2018年4月26日 |

以前にもブログで書いた「センシングテクノロジーから考えるゴルフコーチング」ですが、さらに学びを深めるためにPEAK(Performance・Education・Analysis・Knowledge)というゴルフデータ解析のワークショップに参加してきたので、その学びをシェアしながら最近のゴルフコーチングのトレンドについても書いてみたいと思います。



(今回のワークショップを担当したThe Golf LabのLiam Mucklow氏)

当日は選手、ゴルフコーチ、メディア、クラブフィッター、メーカーなど多数の方が参加されていました。

■ゴルフコーチングの歴史
まずなぜ私が最近このようにセンサーから取得できるデータを重視しているのかという点についてです。
ゴルフコーチングは大きく分けると3つの段階を経て発展してきました。

最初の段階は名手のスイングを模倣するコーチングです。
ゴルフコーチのバイブルとも呼ぶべき「モダンゴルフ by ベン・ホーガン」などが代表的ですが、同じ1950年代に「How to play Your Best Golf All the Time by トミー・アーマー」も出版されたように、強いプレイヤーがどのように打っているのかをイラストや言葉で伝えるレッスンが最初のコーチングと言えます。現代でもゴルフ雑誌を見るとトッププレイヤーのスイングを解説しながら「この動きを真似たら上手くなる」というような記事が多く見られるように、これは今も残る一般的かつ古典的なコーチングの手法です。

2つ目の段階が統計と体系化による発展です。
それまでは本人の主観的な表現がコーチングの主流でしたが、次の段階になると写真やビデオなどで選手のスイングを分析して、特定のパートに注目し、その定性情報(クラブ、身体部位)と、それに対する定量情報(強弱、大小などの量的情報)を言語化、それらを例えばスイングや身体の特徴、飛ぶ人飛ばない人の特徴、上手い人下手な人の特徴という具合に、分類して体系化するコーチングに発展します。
有名なものでは、肩の回転角度とクラブプレーンの関係に注目した「The Plane Truth for Golfers by Jim Hardy」や、ロングヒッターとショートヒッターの腰と肩の角度差に注目したJim MacleanのX-Factorなどが一斉を風靡しました。

これらのスイング理論や考え方は現在でもコーチングの基礎として活用されている普遍的なもので、スイングをタイプ別に分類してそれぞれに合った指導をしていくというゴルフコーチングの基礎をつくりました。その結果多くの体系化されたスイング理論が生まれました。

そして近年の3つ目の段階がデータによる発展です。
これまで研究で使われていた弾道計測、スイングの動作計測、重心や足圧の計測などができる機器が低価格化=大衆化していきます。すると利用者の増加に比例して多くのデータが集まってきます。データという数字の集まりを検証し、そこから導き出される解釈を技術の獲得に活かしていこうというのが近年のコーチングで新しいアプローチになっています。


(こうしたデータから弾道やスイングを読み解く)
こうしたデバイスが収集したデータはもちろん、PGAツアーで使用されている指標
「ストロークゲイン」などの統計データも利用し、2010年にタイガーウッズのコーチも務めたショーン・フォーリー氏はこうしたデータ活用での成功例を多く生み出したコーチの一人です。

このようにゴルフコーチングもテクノロジーや社会環境の変化に応じてどんどん進化しているのが分かります。

■データの種類
さてでは、実際にデータとはどんなもので、どのように使われるのでしょうか?

大きく分けると「①ボール(弾道)データ」「②クラブデータ」「③動作データ」という3つに分類されます。この他にも脳波や心拍数などを測るデバイスもありますし、前述したストロークゲインのような統計データもありますが、スイングという部分に限って言うと上記の3つが代表的で、弾道の改善点からクラブの動きをチェックして、クラブの動きから動作をチェックする①→②→③という流れが一般的です。よってフィードバックに使う場合は逆の③→②→①となります。


そしてデータを使う際には以前にも書きましたが、ゴール(目標)設定が非常に重要だと思います。
女性のアマチュアゴルファーが目指す数値が女子プロの平均値とは限りませんし、日本の男子プロが目指す数値がマスターズチャンピオンである必要はありません。
あくまでも、どのような体の動きが、どのようなクラブの動きに影響していて、結果としてどのようなボールの動きに繋がっているのか?というフィーバックに役立てるというのが最も効果的な使い方だと思います。

その上では『データ間の繋がりを見る』ことが非常に重要で、例えば飛距離には「ボールスピード」「打ち出し角度」「スピン量」の3つが影響している事を知っていれば、「打ち出し角度」に問題があった場合に「インパクトロフト」と「入射角」が影響しているなーと理解し、その情報からスイング中の「チルト(背骨の傾き)」や「リードアームのローテーション」を確認するといった具合に、データの相関関係を知っていることが大切になります。

■PEAKで学べること
そして今回のセミナーPEAKで学んだことは大きく分けて3つあります。

1つ目はデータの定義です。これはどのように測られた数字であるのか?ということです。
例えば「ヘッドスピード」という用語でもクラブの重心(Center of Gravity)で測ったスピードなのか、それともフェースの中心(Geometric center)で測ったスピードなのかで数字は大きく変わります。
また測るタイミングもインパクトの直前なのか、インパクトの瞬間なのか、インパクトの後なのか、でも大きく変わります。

(計測方法による数値の変化をレーザーポインターの光を壁に当てて説明するMucklow氏)

例えば弾道測定器で言うと、トラックマンという測定器はターゲットとボールを結んだ後方線上からレーダーを照射して、そのレーダーの照射エリアをクラブやボールが通過することで起こる波形データを計算することで数値を導き出しています。
一方でGEN-TENが次回のイベントで使用するGC Quadは超高速カメラでインパクトの前後を3次元的に撮影しその撮影データからボールの弾道を計算しています。このようにクラブヘッドの後方の数値と、クラブ前方のフェースの数値とでは出てくる数字が大きく変わる事を知っておかなければいけません。

トラックマンのようなレーダーランチモニターはボールの打ち出しからフェースの角度などを計算するため、フェースについているバルジやロール(フェースにつけららたわずかな湾曲)を考慮しません。これはインパクト時にフェースのセンターがターゲットを向いていてもトゥで打ったボールはオープンフェース、ヒールで打ったボールはクローズフェースと判断します。


同じようにクラブの入射角は同じスイングを2台の機械で比べてた場合に最大で3.1度もの違いが出てきます。
冒頭に説明した通り、我々コーチは最近は様々なデータを参考にしながら指導をしていますが、それらがどんな機械によってどのように測られた数値なのかをよく知っておかなければいけません。

2つ目はデータの相関です。
こちらは前のパラグラフでお伝えしたことですが、例えば飛距離を伸ばすために「打ち出しを高く、スピン量を少なく」するにはどうしたらいいのか?を知っていないとデータを見ても正しく扱うことができません。「スピン量=スピンロフト=インパクトロフトと入射角の差分」という事を知っていてはじめて具体的なスイングの指導をすることが可能になります。
スイング指導の方法は様々ですが、それがどのようなデータに影響を与え、最終的に弾道にどのように影響するのかを知ってないとデータを使ったコーチングができないので、データの相関を知るというのは大切な事です。
あくまでも機械が示すのは数字であり、どうすればいいかは教えてくれませんし、唯一無二の正しいスイングが存在しないのと同じく、絶対的な指標が存在するわけでもありません。あくまでも文脈のように数字の繋がりを見るというのが重要なポイントだと思います。

最後の3つめはコーチングのトレンドです。
こうしたデバイスを使ったデータがどのように活用されているのか、その事例を聞くことができます。
今回も現在の北米のコーチングで何を重要な指標として見ているか、どんなフィードバックが重要かなどを聞かせてくれました。

■最後に
誤解のないように言っておかなければいけないことは、私はデータ偏重派ではありません。どちらかと言えばプレイヤーの感覚を大切にするタイプだと思います。一方でコーチとして客観的で正しい知識を持っておくことは非常に大切だと思っていて、著名なプレイヤーやコーチの言葉を鵜呑みにしたり、自分の主観だけで正しいコーチングが出来るとは思いません。ですからこうした客観的なデータは定期的に目を通して自分の理解が正しいかを確認しています。そういう意味では前回の記事ような体験や、今回の勉強は非常に有意義なものでした。

そんな私が最近特に大切にしていることは、こうした科学的なデータをどうやって『人間らしい感覚的な言葉』で伝えられるか?ということです。例えば「クラブの入射角を2度あげて」と言われてできる人はほぼいません。人間が動きを習得するのに相応しい言葉や見せ方がきっとあるはずで、正しい事実に基づいていれば真実と異なる感覚的な表現でもプレイヤーのパフォーマンスが上がれば良いのです。
おそらくこの先データはどんどん手に入りやすくなり、気軽に誰でも使えるようになると思います。しかし、人の行動を変えるのはファクトではなくコミュニケーションです。そういう意味ではこうしたテクノジーの進化はゴルフコーチの定義そのものを変えるきっかけになるかもしれないなーと思ったというのが今回の感想です。
このセミナーを企画し、一部資料の掲載を許可していただきました「Enjoy Golf & Sports Japan」の皆様に改めて感謝を申し上げます。

如何でしたか?
専門家向けのセミナーの内容をシェアしたのでマニアックな内容になってしまいましたが、GEN-TENのレッスンを受講される皆さんの中にもスタジオなどで様々な計測をされてそのデータをもって来られる方もいらっしゃいます。その際にどのような機械で、どんな測り方をしたのかをコーチにお伝えいただければより精度の高いレッスンが受けられるかもしれませんよ(^^)
今後もレッスンではこうした最新のコーチング情報をスタッフで共有しながら皆様のレッスンに役立ててまいりたいと思います。

この記事を書いたのは

大矢 隆司

大矢 隆司

1980年7月15日生まれ
15歳で単身オーストラアへゴルフ留学Hills Golf Academyで3年間ゴルフを学ぶ。
その後大学在学中にティーチングライセンスを取得しゴルフコーチとして仕事を始める。MBA(経営学修士)のキャリアも持つ異色のゴルフコーチ。
2005年にGEN-TENの設立。現在はディレクターとしてレッスンプログラム開発と組織運営を担当。趣味はゴルフ旅行(スコットランドトリップアメリカトリップ

ゴルフコーチ(USGTF)
メンタルフィットネストレーナー(NESTA)
ゴルフコンディショニングスペシャリスト(NESTA)
ゴルフフィットネストレーナー(JGFO)

Director’s note」を通じて私達が提供するゴルフコースレッスンというサービスについて1人でも多くの方に興味を持っていただけたら嬉しいです。
ゴルフ&ウェルネスツーリズム「The Golf Retreat」も主宰。

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