ゴルフの技術というと、フォームや型に目がいきがちですが、
本当に必要なのは、心と身体の自然な感覚をどう引き出すかだと私は思っています。
特にパッティングは、
力強さや身体能力といった外側の要素よりも、
自分の内側にある「リズム」や「違和感に気づく力」が結果を大きく左右します。
ゴルフのテクニックにも、
心と身体の自然な感覚が深く関わっています。
自分自身と備わっているスキルに対し、どう向き合いパッティングしていくか、
それが私たちは試されています。
目次
-パッティングに「絶対的な正解」はないが、正解に近いものはある
「この打ち方なら絶対入る」
そんなパッティングの絶対的な正解は存在しないように思います。
ですが、私自身が経験から感じている“正解に近い感覚”はあります。
ベントグリーンの8.5フィート以上12フィート以内の速さにおいては、
・早すぎることもなく、遅すぎることのないテンポ(90bpm-105bpm)
・加速度の変化が少ないストローク(一定のリズムで滑らかに)
・打ち出し方向が安定していること(インパクト時にフェースがスクエアでなくてもOK)
絶対的で完璧なストロークを追い求めるよりも、
違和感なく、無理なく自然にパターヘッドが動き続けられるかどうかが大事だと感じます。
-なぜパターには「型」ではなく「感覚」が重要なのか
パッティングには、
ドライバーやアイアンほどのパワーも身体能力も必要ありません。
にもかかわらず、難しいと感じるのは、
「自分の中の違和感」にどれだけ敏感になれるかが問われるからです。
ストローク全体としては良くても、どこかに引っかかる感覚がある
リズムは良くても、なんとなく不安な感じがある
真っ直ぐに打ててもこのラインは、入らない気がする
そうした小さな違和感に気づき、
それを自然に整えられるかどうかが、本当のパッティングの上達に繋がると考えています。
-科学が示す「感覚」の重要性
パッティングにおける感覚の重要性は、ただの感覚論ではありません。
近年の科学的研究でも、明確に裏付けられています。
-Quiet Eye(静かな視線)の研究
Quiet Eyeとは、ストローク前に目標物に対して一定時間、視線を静かに固定する技術を指します。
研究では、Quiet Eyeトレーニングを受けたゴルファーは、プレッシャー下でも成功率が向上し、不安感が軽減されることがわかっています。(Vickers et al., 2024)
(ヒントレッスンでは、過去にフォーカスバンドを使って視線のチェックを行いました)
つまり、
「入れよう」「外したくない」という意識が強くなるほど、
視線が不安定になり、感覚が乱れていく。
逆に、静かに対象を“感じ取る”ことで、自然なストロークが生まれるのです。
感覚を静かに整える視線操作=Quiet Eyeが、成功への鍵だと科学は示しています。
-パット成功率と心理状態の関係-
パッティング成功率は、ホールの見え方にも大きく影響されます。
成功体験の直後、ゴルファーはホールを実際より大きく感じる傾向があることが研究でわかっています。(Witt et al., 2012)
一方、失敗を重ねると、ホールが小さく見え、感覚自体が萎縮していく。
つまり、
「正確に打つ」ためには、単にテクニックを磨くだけでなく、
自分が世界をどう感じているか(感覚の柔軟性)が決定的に重要なのです。
-身体的なパフォーマンスと自己効力感
高い自己効力感(=「自分はできる」という感覚)を持つゴルファーは、プレッシャー下でも自動的な運動制御が促進され、
フォームや動きに意識を向けすぎずに、自然なストロークを維持できることが示されています。(Zhang et al., 2024)
つまり、
「型を守る」ことよりも、
自分の感覚を信じ、自然に任せる力の方が
パッティングにははるかに大きな影響を持つ、ということです。
-私の考えるパッティングの正解とは
これらの研究の事例ように、
パッティングが単なるテクニックだけではなく、
感覚がパフォーマンスに優位に働くことがはっきりと示しています。
・「感覚を整える」Quiet Eyeの力
・「世界の見え方」を左右する心理状態
・「できる感覚」が支える自然な運動
これらの科学的知見は、パッティングが単なるテクニックではなく、感覚のスポーツであることをはっきりと示しています。
だからこそ、型にはめるだけでは届かない場所に、感覚を育てる意味がある。
以上のことを踏まえ、私が考えるパッティングの正解は、
「自然にボールが転がる未来を感じられるかどうか」です。
ストロークのイメージやラインの読みについてなどのテクニックは、打つ前に最善を尽くし、やることを決めておく。
アドレスに入ったら子どものようにあれこれ考えず、フィーリングを信じる。
すべてをコントロールしようとせず、
外れる覚悟や、ミスを恐れない勇気を持って打つこと。
その結果、自然とストロークやリズムが整い、
ボールがイメージしたとおりに転がっていくのだと思います。
(自分のフィーリングが信じられるように練習器具を使った合理的なストロークをトレーニングしておく)
-上質なパッティングを目指す
カップインには、不確定な要素がどうしても伴います。
ラインの読み、グリーンの微妙な傾斜、風、芝目や芝の種類──
どれだけ準備をしても、すべてをコントロールすることはできません。
だからこそ大切なのは、
質の高いストロークと、ボールの転がりに最善を尽くすこと。
そして、そこから生まれる自分の感覚を、少しずつ、上質なものに育てていくこと。
私たちのストロークの美しさも、タッチの柔らかさも、
一打一打のなかに“その人らしさ”がにじみ出る。
そんなパッティングの世界観に触れてはみませんか?
-参考文献-
1.Vickers, J. N., et al. (2024). The effect of quiet eye training on golf putting performance in pressure situations. Scientific Reports, 14, Article 12566.
https://www.nature.com/articles/s41598-024-55716-z
2.Witt, J. K., Linkenauger, S. A., Bakdash, J. Z., & Proffitt, D. R. (2012).
Putting to a bigger hole: Golf performance relates to perceived size.
Psychonomic Bulletin & Review, 19(2), 320–325.
https://doi.org/10.3758/s13423-012-0238-9
3.Zhang, Y., Wang, X., & Li, J. (2024).
Effects of self-efficacy on frontal midline theta power and golf putting performance.
Frontiers in Psychology, 15, 1349918.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2024.1349918/full