アプローチショット。
それは、多くのゴルファーにとって「いちばん課題に感じているパート」かもしれません。
レッスンの現場でも、「アプローチが苦手で……」「距離感が合わなくて……」という相談は後を絶ちません。
でも実は、この領域に関する専門的な情報や練習方法は意外と少ないのが現状です。
そのため、私たちは知らず知らずのうちに、「こうすればいいはず」と思い込んでいる方法に頼り、
かえってアプローチを難しくしてしまっているのかもしれません。
私自身、かつて20ヤードのアプローチで「打点も感触も完璧だ」と思ったのに、なぜかグリーンを大きくオーバーするという経験をしたことがあります。
「これは振り幅の問題ではないのでは?」という疑問が、アプローチを探究するきっかけになりました。
今回はその背景にある構造や、アプローチにおける“変化させる力”について、一緒に紐解いていきたいと思います。
目次
-いつもと同じでは“寄らない”ショットがある
アプローチが難しく感じられるのは、その日の芝の長さ、地面の硬さ、風、グリーンの傾斜など、“状況によって正解が変わる”ショットだからです。
たった数ヤードのショットでも、「昨日のあの感覚」が通用しない—それがアプローチです。
上手くいかない方というのは、
グリーン周りという「再現性が出にくい状況」で、
フルショットのように「再現性を前提とした打ち方」をしている点が、ミスの原因になりやすいのです。
だからこそ大切なのは、「いつも同じ動き」ではなく、“変化に応じられる動き”です。
距離感を合わせるには、振り幅だけではなく、
・インパクトのフェースの入り方(入射角)
・シャフトの傾き(シャフトリーン)
・フェースのどこに当てるか(打点)
といった微調整が、実はとても大きな意味を持っています。
-感覚で打つ。でも、その感覚を支える「仕組み」を知る
たとえば、カナダのMackenzieらの研究(2010)では、シャフトの角度を変えるだけで、
同じ振り幅でも打ち出し角やスピン量が大きく変化することが明らかにされています。
これはつまり、
「同じように打っている“つもり”でも、ほんの少しの手元の位置の違いが、結果に直結している」ということです。
でも、こういった知識は、「難しい理論として覚えなきゃ」と身構える必要はありません。
むしろ、知っていることで気持ちがラクになることもあります。
「うまくいかないのは自分の感覚のせいじゃなくて、スイングの構造がズレていただけなんだ」
と思えるだけで、練習の方向性がガラッと変わります。
-再現性よりも“調整できる自分”を育てる
アプローチが苦手な人の多くは、フルショットと同じように「再現性」を大事にしてしまいがちです。
ですが、アプローチにおいては、“常に変わる外的要素”に合わせて、自分の動きを変化させていくことが重要です。
この意味で、アプローチとは「変化させるスキル」を磨く場だとも言えます。
そして何よりも大切なのは、その変化を“力まずにできるか”ということです。
振り幅や構造を知ることは大事ですが、
最終的に求められるのは「リラックスして、その時の感覚に寄り添って打てること」。
構えた瞬間に「どんな球を打つか」がイメージできて、
それに合わせて自然と身体が動いていく──そんな状態が理想です。
-デイブ・ペルツが伝えた“乗せる”という感覚
アプローチの名著『Dave Pelz’s Short Game Bible』では、
60ヤード以内のショットを「フィネスショット」と呼び、フェースに“乗せて”距離を合わせる技術が解説されています。
ペルツは、打ち出し角 × スピン量 × ライの影響という“構造”を理解したうえで、
それを「感覚」としてプレーに落とし込むことの重要性を説いています。
つまり、構造を知って、感覚に委ねる。
頭と体のバランスを取っていくアプローチの姿勢が、結果的に“寄る技術”を育ててくれるのです。
-自分を緩めてあげる力とは、変化を引き受ける力
「いつも通りに振ったはずなのに、なんで寄らなかったんだろう?」
アプローチには、そんな“答えのない疑問”がたくさんあります。
でも実は、その答えを少しずつ紐解くヒントは、スイングの中にちゃんとあります。
そのヒントを知っておけば、感覚で打つことも、もっと自由に、もっとリラックスしてできるようになるはずです。
「変化させる力」とは、“自分を変える”ということではなく、
“状況に合わせて、自分を緩めてあげる力”でもあるのかもしれません。
20ヤードのアプローチでグリーンを大きくオーバーしてしまった、あの一打。
「どうして?」と立ち止まったあの瞬間が、私にとってアプローチ再構築の始まりでした。
同じように悩んでいる方にこそ、
「振り幅だけでは語れないアプローチショットのメカニズム」を知ってほしいと思います。
“いつも通り”では通用しないのがアプローチ。
でもだからこそ、変化を引き受ける力が磨かれる。
それが、アプローチという技術の奥深さであり、楽しさなのだと思います。
-参考文献-
・Mackenzie, S. J., & Sprigings, E. J. (2010). Understanding the Biomechanics of the Short Game. International Journal of Golf Science
・Pelz, D. (2000). Dave Pelz’s Short Game Bible.