「見えているもの」と「実際に起きていること」は違う─キネマティクスとキネティクスから考えるゴルフスイング

2026年5月27日 |

私が好きな研究に、脳科学者ベンジャミン・リベット(Benjamin Libet)による「リベット実験」という有名な研究があります。


(イラストはGeminiで作成)

この研究では、「人が“自分の意思で動こう”と自覚するより前に、脳ではすでに運動の準備が始まっている」という結果が示されました。

簡単に言えば、私たちは“自分の意志で動きをコントロールしている”と思っていますが、実際にはその前から無意識レベルで脳や身体が先回りして準備を始めている可能性がある、ということです。

この研究により、私たちが抱く自由意志は、幻想ではないかという仮説が生まれました。

■私たちがコントロールできる限界について

ゴルフスイングのような高速でクラブを振り回す運動において、その動作中に身体のすべてを意識的にコントロールしようとすることには限界があるし、意識できることは現実的に1つか2つくらいだと思います。

ゴルファーは上達しようとするほど、「下半身リードで打つ」、「前傾キープをする」、「タメ(腕と手首のラグ)をつくる」、「フェース向きを合わせる」、「体重移動をする」など、身体のあらゆる部分を動きにこだわり、それをコントロールしようとし始めます。

しかし、私たちの運動は本来、そこまで単純な“部位の操作”で成り立っているわけではないと思いますし、クラブを振るという目的に対して、脳が無意識に姿勢制御や運動協調を統合している側面の方が大きいと考えられます。

“下半身リードの意識”がゴルフスイングの上達を妨げる理由

ゴルフスイングを難しくしている原因のひとつに、「動きのすべてをコントロールできると思うこと」や「コントロールしたくなってしまうこと」があるように私は感じています。

■“見えているもの”と“実際に起きていること”は違う

下半身から動いている、前傾を保っている、タメがある、頭が残っている、ハンドファーストになっているなど、ゴルフのテクニックを語る際は、スイング中に“見えているもの”を基準に語られています。“見た目の動き”や、“見た目の形”など位置や速度で表すことができる側面を運動学:キネマティクス(Kinematics)と言います。


(スポーツボックスAIはスマートフォンでスイングの形や動きを確認できるアプリ)

一方で見た目のゴルフスイング(運動学)は、体の重心の移動、地面反力、クラブの遠心力による“実際に起きていること”、つまり力学的なエネルギーによって構成されます。どの方向にどのくらいの力が働いたかは、私たちは目で見ることができません。この物理的に目に見えないエネルギーについてを運動力学:キネティクス(Kinetics)と言います。


(イラストはGeminiで作成)

ゴルフスイングを正確に分析するなら“見えているもの”と“実際に起きていること”は必ずしも一致していないという視点が必要になります。

「スウェーしたから(からトップ)」「左肘が引けた(からスライス)」や「頭や前傾が起き上がった(からダフッた)」などのミスを分析する際はスイングの形が原因ではなく、「地面や体にどんな力をかけたか」や、「クラブを振った時に発生した遠心力」、「無意識の姿勢制御の結果」や「脳の神経伝達の遅延」として現れた力学的なエネルギーがミスを構成する要因になります。

ところがゴルフでは、その“スイングの形”をスイングエラーの原因にしてしまい、修正しようとすることが多くあります。一時的に改善するかもしれませんが、ゴルフスイングを上達させるということで言えば、間違ったアプローチの仕方なのです。

■スイングの形は、スイングエラーの原因が予測できる指標

目に見えるスイングの形(運動学)が必要ないかと言えば、そうではありません。常に力学的なエネルギーを装備して練習やラウンドしたりすることは現実的でないですし、そのようなレッスンを受ける側も、提供する側も莫大なコストがかかるのである意味非効率です。

「トップで起き上がった」とか、「インパクトで起き上がった」とか「クラブがアウトサイドインの軌道だった」など目に見えた現象があることで、「このタイミングで〇〇方向に力がかかった、またはかけた(作用)」や「クラブを振った際にこういう力がかかった(反作用)」と力学的な原因が予測できるようになります。
(スイング動画をみることでミスの原因を特定はできないが、予想することはできる)

医者で言う診察(視診や触診など)のような意味で、スイングの形からスイングエラーの原因を経済的かつ瞬時に予測するためには、“見た目の形”も大事なのです。

■ゴルフスイングの上達には、目的と理由が必要

スイング中の力学的なエネルギーを説明できたり、スイング中のスイングエラーの原因が特定できてもスイングが改善するとは限りません。“この方向に”“このタイミングで”“このくらい力をかける”と理解できても、体はその通りに動かず上手くいくとは限らないのです。

力学的なエネルギーを変えるには、適切な練習や経験を通して、理屈でも文字でもない「こんな感覚」や「こんな感じ」など非言語的なスイングの感覚や体で感じる感覚の習得が必要になります。


(私は中村コーチ小西コーチにこの感覚であってますか?と確認することが多い)

そしてその感覚を得るためには、どのくらいボールを飛ばしたいのか、どんな高さにするのか、スピンは?曲がり幅は?など、どんな打球にするかその目的と理由が必要です。目的と理由があってはじめて体は、そのスイングに必要な力を出力したり、スイング全体の動きが統合されるようになります。その時の非言語的な感覚を覚えて、養っていくことが大切です。

■感情をスイングに乗せる

冒頭で紹介したリベット実験が示したように、私たちの運動は意識だけで完全にコントロールされているわけではありません。

むしろ脳や身体は“何をしたいのか”という目的に対して、無意識に姿勢制御や運動協調を統合している側面の方が大きいのだと思います。

だから私はゴルフスイングにおいても「正しく動いた」とか「ミスしなかった」とか細かく管理することより、「何を感じ、何を表現したいのか」が大切なのではないかと思っています。どんな球を打ちたいのか。どんな感覚でクラブを振りたいのか。そういった“目的”や“理由”が必要だと思っています。


(ベトナムのダナンにあるコースを訪れたときのホテルからの景色。ここにいってみたいとかそういう目的は、ゴルフを取り組む上で良い動機になると思います。)

私はゴルフを始めた頃を振り返ると純粋に「できたことを誰かに見て欲しかった」 という気持ちが根本にありました。

遠くへ飛ばせたこと。良いショットが打てたこと。上手くできたこと。良いスコアが出たこと。その難しさや頑張ったことを、誰かに見てほしかった。だから私は今も、ゴルフを“表現”であり、“体現”するものだと思っています。上手く振ろうとするだけではなく、自分が何を感じ、何を表現したいのか。その感情や思考をスイングに乗せてクラブを振ります。

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この記事を書いたのは

寺嶋 慶介

寺嶋 慶介

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